DAISYプラネット 2019年1月号

2019/01/24

DAISYコンソーシアムのニュースレター「DAISYプラネット2019年1月号」が配信されました。http://www.daisy.org/planet-2019-01以下、概要を日本語にしました。

トピックは以下の4つです
(1)“鉄人”からのアクセシブル出版への提言
(2)情報共有化について、スウェーデンから
(3)DAISY音楽点字コラボ―レーション――最新ニュース
(4)ボーンアクセシブル・コンテンツ・チェッカー――最新情報


 

(1)“鉄人”からのアクセシブル出版への提言

以下の記事執筆において、CNIB副会長およびDAISYコンソーシアムの理事会メンバーであるDiane Bergeronに感謝する。

いかなるスポーツのトレーニングにも献身性と責任感、そして何よりもモチベーションが必要である。一般の意見とは違い、私は朝、ベットから飛び上がり階段を降り、ランニングマシーンの上で笑顔で「よし!よし!」などと自分を鼓舞したりはしない。
現実では、以下のような感じだ。朝、ベットから何とか這い出し、眼を開けるための力を使うかどうか考える…(私は目を使うことは無いのだけど)
私は今、53才で全盲である。そして、鉄人レースに出る“鉄人”なのだ。

あなたは私の鉄人となった経験とアクセシブル出版にどう関係があるか訝しがっているかもしれない。ただ….この2つの道行にはいくつもの共通点がある。

2009年、私は“自分を試すこと”を始めた。スカイダイビングから始め、2010年にはレースカーに乗った。2011年には29階建ての建物から懸垂下降をした。そして2012年、私が次に何をするかアイディアがなくなっていた時に、大学時代のクラスメイトがある記事を送ってくれた。それは、トライアスロンで競い合う視覚障害を持つ女性たちに関するものであった。
「Diane, あなたそれやりなよ」私の友人であるCherylはそう言った。
私はその時47で全盲でだらだらと日々を過ごしていたから、Cherylは正気でなくなったのかと思った。でも、“チャレンジ”を拒否できない性分だから、体を鍛えることにした。6か月後、私は初めてオリンピック公式距離のトライアスロン(水泳1500m、自転車40km, ランニング10km)を完走した。私はびりから2番目だったが、とにかく完走したのだ。私にとってそれは成功だった!

「あなた今度はハーフの鉄人レースができると思う」とCherylが言った。(水泳1.9km, 自転車90km, ランニング21.1km)
私はCherylにあなたはちょっとおかしいから、1か月は口を聞きたくないと伝えた。彼女はしっかり私の言葉を守ってくれた。そして、その1か月後私たちは、鉄人ハーフレースに参加登録した。

それから、私はいくつかのオリンピック公式距離レースと4回の鉄人ハーフレースを完走した。そして、2015年の8月に最初の鉄人レースに挑んだ。(水泳4km, 自転車180km, ラン42km。全行程を17時間以内に終える必要がある)
レースの日は、抜けるような青空だった。私は落ち着いていて、レースに臨む準備はできていた。水泳は上手くいき、自転車の最初の90キロはすばらしかった。ただ、気温が40度に達し、私は暑さを感じ始めた。
なんとかランの21キロ地点までは到達したが、熱中症の症状が出始めた。私はゴールテープを切るよりも自分の健康のほうが大事だと思い、決心した。がっかりはしたが、正しい決断だったと思う。レースの主催者に2年後戻ってきて、再挑戦すると伝えた。

2年後、私は2017年Mont Tremblantの鉄人レースのスタートラインに立っていた。(カナダ・ケベック州)この時私は、もし…視力を失った時、正気も失っていたらどうなっていただろうかなどと考えていた… なんでこんなことを考えていたんだろう!そうして、号砲が鳴り花火が舞った。自分で気が付く前に、私はビーチを横切り水へと潜っていた。もう一度“鉄人”となる挑戦をするために。

この日はいい天気で、ガイドのKoryと私はいい気分だった。長いけれども、楽しみがいっぱいの日を経て、ゴールテープを切ったときに、疲れと高揚感を同時に感じた。

ある点で、私はこの金字塔的な成功をおさめたことを信じ切れていないけれど、この経験は確実に一つのことを教えてくれた。それは、何事も可能であるということである。

アクセシブル出版のことをよく知らない人には、その達成は困難なもののように思えるだろう。主流の出版社も小規模なところも、既に確立されたビジネスのやり方の変更であったりワークフローの改案であったりが必要であることを懸念しているからだ。ただ、世界のDAISY会員が出版社との話し合いの中でフィードバックとして聞いていることは、最初障害だらけのように見えた(アクセシブル出版への)道も、時が経つにつれ、組織にとって利益のあるものであることがわかり、とてもポジティブに受け止められるにようになったということである。

最初の挑戦で、何かすばらしいことを成し遂げられることはまれである。それはインクルーシブな出版にとっても同じことだ。多くの人たちがアクセシビリティは道程であり目的地ではないと考えている。そうであるならば、道中にいくつかのでこぼこがあることはせ自然なことだろう。しかし、こうした経験から学び、それに応じてその過程を見直していく、そうしていけばそれもまた成功と呼べるだろう。正しい方向への小さな一歩もまたインパクトがあるのだから、あきらめず、モチベーションを保ち集中することが重要である。
スポーツにおける挑戦と同じく、はじめ難しく見えたものでも、トレーニングと献身性、責任感を持ってすれば、達成可能である。毎年、さらに多くの出版社がこの素晴らしいゴールの達成に向かって努力しているのである。

(2)情報共有化について、スウェーデンから

DAISYコンソーシアムのいくつかのメンバーはそれ自体がコンソーシアム(協会)であり、それぞれ国内でのコミュニケーションや活動のマネジメントを行っている。そうした協会の一つがスウェーデンDAISYコンソーシアムである。この記事では同団体の会長であるElin Nordにその年次会議で話し合われたことについてまとめて頂いている。

スウェーデンDAISYコンソーシアムは42のメンバーを抱えており、それは大学や地域の図書館、Swedish Agency for Accessible Mediaとその関係団体を含む。我々はDAISYコンソーシアムのフルメンバー(正会員)である。
我々の年次会議が11月ストックホルムで行われた。今回の議題は「民主主義のためのアクセシブルリーディング」であり、会議ではどのようにして全ての人の参加を可能にするのか、ということが話し合われた。年次会議の参加者の多くは公共図書館や大学図書館の図書館員であり、MTM(Swedish Agency for Accessible Media)のスタッフ、障害者支援団体やその他の興味を持つグループもいた。
Christine Bylundによる本会議最初のプレゼンテーションは、規範を破るとはどういうことか説明したものであった。社会規範とは、健康でヘテロセクシャルな白人のためのものであるからして… 障害者としてこの規範を破るとはどういうことなのか?この規範は障害者がどのように振舞うことを規定しているのか?それに対して、障害者は何ができ、何をすべきなのか?といった疑問がわく。Christineはメディアやコマーシャルなど社会のあらゆる側面で障害者が表に出ていることが重要であること、そうすれば障害者に何ができて、何ができないかということに関しての規範を打ち破ることができると語った。
デジタル化のパワーと情報格差をどのように埋めるのかということも本会議の議題の一つであった。Jan Gulliksen教授はデジタル化が変革する力のあるものであり、大きな可能性があるという議論を行った。彼は、デジタル化とともに社会はどのように変化し、その可能性を利用するかということについて話した。より多くの人々―異なる障害を持つ人々をデジタル化されたコミュニティに参加させるいくつものプロジェクトについても発表された。

別の議題として、どのように情報を全ての人にとってアクセスできるものにするか、ということもあった。“簡単に読める政治家になろう(Be an Easy-to-Read Politician)”プロジェクトは政治家のためのオンラインコースであり、簡単に読めるスウェーデン語の書き方を教えている。その結果、読書に障害のある人々が政治的な議論に参加できるようになるのだ。その他の“簡単に読める~”プロジェクトもまた発表された。このプロジェクトではエンドユーザーに調査を実施し、具体的に何がテキストを簡単に読め、簡単に理解できるようにするのかということを明らかにしようとした。その結果、読みやすいテキストは、テキストの書き方のみが問題になるわけではなく、レイアウトやフォントなど、どのように表示するかということもまた重要であるということがわかった。
新たな利用者を呼び込むことは常にチャレンジである。この点において、Linköping公共図書館の図書館員がどのように予想外の状況の中で予想外の方法で新たな利用者を呼び込んだかを聞くことはとても興味深い。例えば、図書館員は労働組合の会議に赴いて、読書障害のある人に向けて図書館サービスについての情報を披露したりしたのだ。

主流の出版社やメディアと関りを持ち、彼らにインクルーシブな出版の利点を理解してもらうことの重要性がもう一つの議題である。MTMのFredrik KarlssonはMTMによって何度か行われた出版社にDAISYコンソーシアムが提供するアクセシブルな電子書籍のチェッカーを使ってもらう社会実験について説明した。主流な出版社もインクルーシブな出版に多大な興味を抱いているのだ。

北欧の他の国から2人のゲストスピーカーも本会議に訪れた。ノルウェーのNLBのÖyvind Enghは、新たなユーザーを呼び込みアクセシブルなメディアへのアクセスを向上させることを目的とした新たな協力関係について発表した。その一つは、主要な出版社と協力し、一般消費者向けの書籍をボーン・アクセシブルなものとして――初めからアクセシブルなものとして――出版することである。Öyvindはまた、マラケシュ条約によって、NLBがどのようにしてさらに早く適切な教科書を生徒たちに提供できるかといったことも触れた。Celiaから来たKirsi Ylläneはマラケシュ条約の利点についてさらに詳しく発表した。この条約は適切なアクセシブルなテキストを共有することを容易にする。ある本がある国でDAISY化されている場合、その本は全てのマラケシュ条約締結国で共有ができる。そのため、それぞれの国が同じテキストをアクセシブルに変換する必要がなくなるのだ。その結果、リソースを効率的に使えるようになり、より多くの本がアクセシブルなものとなると考えられる。Kirsiはマラケシュ条約によって、国際的な大学間でアクセシブルなテキストの共有が可能になる、と述べた。

本会議の参加者は刺激と新たな知識を得た。「スウェーデンDAISYコンソーシアムが主催した中で一番の会議だった」という意見もあった。

本会議の発表はスウェーデンDAISYコンソーシアムのホームぺージYoutubeで見ることができる。

 

(3)DAISY音楽点字コラボ―レーション――最新ニュース

音楽点字(Music Braille)活動の最新情報を提供して頂いたことに関して、Sarah Morley Wilkinsに感謝する

音楽点字ファイルの標準化とツールの方向性についての議論をさらに深めるため、2回目の会議が10月31日ロンドンで行われた。第1回の会議はライプツィヒにて7月に行われた。私たちの最大の焦点は、各団体による教育分野における未来の印字式音楽点字(future paper music braille)の生産を保護することである。
Arne KyrkjebøとSarah Morley Wilkinsが会議の議長を務め、会議ではライプツィヒでの会議で話し合われた作業領域における進捗のレビューが行われ、より長期の構想が練られた。

音楽点字を製作している主要な視覚障害者団体や、教育関係者、変換ツールの製作者など総勢40人(12名のオンライン参加者を含む)が会議に集まったオーストラリア、カナダ、中国、ヨーロッパ、インド、韓国、ニュージーランド、そしてアメリカからの参加者がいた。
本会議の参加者たちは、様々な領域において音楽点字製作を改善するための作業を続けている。その進捗状況が報告された。

・BrailleMuse, GoodFEEL, Hodderといった音楽点字変換ツールのテストが行われている。修正案のリストがツール制作者に送られ、改善が試みられている。
・DZBが製作したツールHodderをDediconがトライアルしており、様々な音楽ファイルが試されている。この2社は2019年にどのような(あるいはその他の団体も巻き込んだ)提携関係を構築するか結論をだす予定だ。
・W3Cに対して音楽記録法への私たちの要求を提起し、後継のファイルフォーマットをMusicXMLやMNXとする活動を行った。
・信頼のおける仲介事業者がどのように出版社にアプロ―チし、マスターファイルを獲得するか――理想的には金銭や契約無しで――という方法に関する草稿執筆
・ファイルを共有と検索をより簡単にするため、BookshreやABC Global Library Service, NLSといった音楽点字ファイルのオンライン収集データのための「メタデータタグの共有を図る。・より速く正確で信頼のおける音楽点字への変換を実現するため、MusicXMLのより詳細な仕様をつめ、記録方式の専門家への提言とする。
・将来的な持続可能で正確で信頼のおける変換ツール制作のため、我々の要求するスペックを記した文書の準備作業。その製作の大幅な進歩のため予算が必要だとするならば、どのようにしてコンセンサスをはかり、資金援助を集めるかというプロセスも盛り込まなければならない。

次の会議は、2019年5月28-29日にジュネーブで行われる。その会議では、ツールの仕様・技術的発展計画・MusicXMLの仕様ガイドに焦点を当てる予定だ。

詳細については、musicbraille [at] daisy [dot] orgにメールをし、メールリストに参加して頂きたい。
www.daisy.org/project/daisy-music-braille.にて全てのプロジェクト詳細と、文書、会議録、発表の内容を閲覧することができる。

 

(4)ボーンアクセシブル・コンテンツ・チェッカー――最新情報

ボーンアクセシブル・コンテンツ・チェッカー(BACC)に関する最新情報を提供して頂いたことに対して、DZBのSarah Bohnertに感謝する。

10月、フランクフルトブックフェアに合わせて、「視覚障害者のためのドイツ中央図書館」は、EPUBのアクセシビリティチェックツールであるBACCを公式リリースした。
BACC(Born Accessible Content checker)は「視覚障害者のためのドイツ中央図書館」によるプロジェクトである。この図書館はドイツ語でDeutsche Zentralbücherei für Blinde (DZB)と呼ばれ、図書館機能と点字と音声DAISY図書の製作機能を持っている。1894年より、DZBは視覚障害者のためのアクセシブルな本の製作に深く関わってきた。

アクセシブルな書籍の幅を広げるため、DZBはドイツの出版社と協力関係を築き、出版社によるボーンアクセシブルな電子書籍の製作を支援している。
インクルーシブな出版とアクセシブルな電子書籍デザインへの関心を高めるため、DZBは2018年のフランクフルトブックフェアに参加した。これは紙媒体・電子媒体コンテンツビジネスの国際的な見本市であり、ここでDZBはEPUBアクセシビリティチェックツールであるBACCを初めて発表した。

BACCはウェブアプリケーションであり、出版社や出版サービス提供者がEPUBフォーマットの電子書籍を望ましいアクセシビリティへの要求と照らし合わせて、その適合性をチェックすることができるツールである。このツールは http://bacc.dzb.de/で、無料かつ登録やインストールも必要なく使うことができる。
BACCの内部では、Ace by DAISYというEPUB用のアクセシビリティチェッカーが動いている。
DAISYプラネット2017年12月号でそのアナウンスがされてから、BACCプロジェクトでは様々な出来事が起こった。今年の初めに、BACCは「Digital Imagination Challenge」というコンペにおいて2位に入った。このコンペは、デジタルメディアにおけるアクセスと利用者数の向上を実現する技術発展を促進するためのものであった。

その後、BACCを最初のバージョンからリリースできる状態に改善するため、たくさんの努力が重ねられた。グラフィカルユーザーインターフェースはアクセシビリティチェックをより簡単にするユーザーフレンドリーな形に最適化された。ドイツ語への翻訳も完了し、いくつかのチェック結果を保存する機能も追加された。Aceと同じく、メタデータ確認機能も追加され、ユーザーがどの(アクセシビリティ)メタデータが無いのかチェックできるようになった。
このツールの最大の革新性のうちの一つは「advice」と呼ばれる新たなチェック機能を搭載したことである。これは、自動的に発見される不具合に加えて、どの部分に人の手によるアクセシビリティの評価が必要か、出版社に対してアドバイスするものである。
夏に、BACCツールの有用性評価がライプツィヒ応用化学大学(HTWK)の学生プロジェクトの一環として行われた。そのテストの結果、全ての参加者がBACCが出版社にとって有益なツールであると結論付けた。興味深いことに、ユーザーはアクセシビリティの不具合に関する詳細な情報を得たいと思っていることがわかった。これは、ユーザーは彼らのEPUBのアクセシビリティに関する問題をただ修正したいと思うだけでなく、なぜこうした問題が起こったのかまでを知りたいということである。

昨年、DZBはBACCプロジェクトに際して、たくさんの支援を受けた。最大の寄与者はザクセン州政府である。彼らにはこのプロジェクトに資金提供頂いた。さらに、BACCの開発は、DiogenesやDe Gruyter、Aufbauといった出版社の協力を得ている。彼らはこのプロジェクトに電子書籍を提供してくれた。

今日、プロジェクト開始から実りある1年が過ぎた。DZBはこのようにこの1年を振り返る。「フランクフルトブックフェアでBACCツールを発表できたことを誇りに思う。しかし、BACC 1.0.0のリリースは最初の一歩に過ぎない。私たちは、これからも出版社と密な関係を築き、彼らがインクルーシブな出版を実現する助けとなりたい。私たちの目標は、全ての電子出版においてアクセシビリティが標準的な品質となることである。そして、BACCとともに我々はその目標に貢献したいのだ」

ツールに関する詳細は、www.dzb.de/bacc-flyer-enのBACC brochure [PDF]をご覧いただくか、sarah [dot] bohnert [at] dzb [dot] deまでメールで連絡してください。

 


以上です。

掲載内容について、お気づきの点等ありましたら、info@atdo.jpにお寄せください。

M.A.