DAISYプラネット 2017年10月号

2017/11/14

DAISYコンソーシアムのニュースレター「DAISYプラネット」 2017年10月号

遅くなりましたが、DAISYプラネット10月号の簡単な日本語訳を作成しました。
原文はこちら:http://www.daisy.org/planet-2017-10

トピックは、次の7つです。
1.マラケシュ条約の発効から1年
2.W3Cパブリッシングサミット
3.Vital SourceがDAISYのメンバーに
4.アクセシビリティ能力向上研修 in ボツワナ
5.開発途上国でアクセシブルなコンテンツの問題をどう解決していくか?
6.Marianne van der Meulen氏追悼
7.ObiとTobiのアップデート

1.マラケシュ条約の発効から1年

スイスのWIPO(世界知的所有権機関)事務所で、現状と条約発効による効果の確認のため、第二回マラケシュ条約総会が開催された。いくつか主要な点を紹介する。

マラケシュ条約、正式には「視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(Marrakesh Treaty to Facilitate Access to Published Works by Visually Impaired Persons and Persons with Print Disabilities)は、2013年6月にWIPOで採択され、その後間もなく75のWIPO加盟国が批准の意志を署名し、「マラケシュの奇跡」と言われた。条約は、アクセシブルなフォーマットの出版物の国際的なやり取りをするための、著作権の例外と制限によるフレームワークを提供することで、印刷物を読むことに障害のある人たちが既存のアクセシブルな出版物を入手する環境を改善し、また、出版物をアクセシブルにするための作業の重複を劇的に削減する。

20カ国が批准し、2016年9月30日に、マラケシュ条約は発効された。昨年中にはさらに11カ国が批准し、現在計31カ国が批准している。
発行後すぐに、WIPOによって開設されたABC Global Book Serviceを活用して、アクセシブルなコンテンツの安全な国際交換が始まり、現在は9500以上の書籍が認可された団体によりダウンロード可能となっている。これは、約1900万米ドルのアクセシブルなコンテンツの製作費削減につながったと報告されている。

EUは2014年4月30日にマラケシュ条約に署名し、その後、数々の問題を解決しながら、2017年9月に、条約に沿った法整備をEUに加盟している28すべての国が2018年10月11日までに行うことを要求する「EU framework for implementation」への同意にいたった。これにより、初めて、世界一の歴史と大きさを持つアクセシブルな出版物のコレクションのひとつの、国際的なやり取りが可能となる。

ヨーロッパ盲人連合(EBU)と世界盲人連合(WBU)は、EUメンバー各国が、どのように法律を実行するか。特に、任意条項である、補償権、または、著作権者や出版社に対する「アクセシビリティ税」の実施のモニタリングの重要性を強調した。世界盲人連合の出版物「A Guide to the Marrakesh Treaty: Facilitating Access to Books for PrintDisabled Individuals」には、マラケシュ条約をこれから推進し始めるための、段階、決定事項、推奨事項についての情報が掲載されている。

2013年10月には、アメリカも批准に向けて条約に署名した。2016年2月に、オバマ大統領が条約の批准を米議会に推奨した現在、アメリカ合衆国上院外交委員会の、一番古いもので1949年からの未決のものを含む、45の条約の中のひとつとなっている。

条約の批准は時間のかかるものであるが、批准した国々にもたらされた恩恵は、その効果を証明し、マラケシュ条約の初年度の推進の成功には勇気付けられる。世界中の印刷物を読むことに障害のある人の支援団体と、アクセシブルなフォーマットが入手できなければ本を読むことができない人々の、状況の改善に、マラケシュ条約は奇跡を起こし続ける。

Dave Gunn氏による投稿

2.W3Cパブリッシングサミット

1989年に、24の全地球測位システム(GPS)の初めての衛星が打ち上げられた。任天堂がゲームボーイを発売した。Microsoft Officeの最初のバージョンが発売された。そして、Tim BernersLeeがWorld Wide Webを考案した。1989年には、web技術が世界中でどれほどの影響を持つか誰も想像できなかった。
現在、World Wide Web Consortium (W3C)の技術は、従来のブラウザによるWebページのレンダリングからは想像できないほど、あらゆる場面で活用されている。encompass telecommunications、automotive、TVと放送、機器の相互接続(Web of Things)、そして今注目されている出版。

初めてのW3Cパブリッシングサミットが2017年11月9日10日にサンフランシスコで開催される。2017年2月にIDPFとW3Cが統合してPublishing@W3Cができてはじめてのイベントである。技術企業、出版社、販売店、図書館、規格団体等が講演をする。
障害者を含むすべての人にとって、よりよい出版物のための、Webと出版の世界での先進技術が紹介される。多くの講演でアクセシビリティに言及されるようだが、特にW3CとDAISYの講演“Accessibility in Publishing and W3C”では、出版物のアクセシビリティチェックと認証についての最新情報が提供される。

W3Cの年次会議であるTPACと同時に開催されるので、ネットワーキングもできる。最新技術のデモも見ることができる。
詳細はこちら:W3C Publishing Summit event page.

3.Vital SourceがDAISYのメンバーに

Vital Sourceは、すべての側面において中核となる価値のひとつとしてアクセシビリティを重視しており、長年DAISYコンソーシアムや、そのメンバー団体や企業と協力してきた。
アクセシビリティの保障は、Bookshelf® のような学習基盤、コンテンツ製作者と出版社、利用者の機器やOS、支援機器等の、共同責任であると認識している。私たちは10年以上もの間、透明性、信頼、そして、すべての利用者の容易なアクセスのために、業界団体(DAISY等)と、業界規格(EPUB等)に関わる活動をしてきた。
Bookshelfは、iOS、Android、Chromebook、KindleFire、Windows、Mac等でオンラインで利用できる。EPUB testで、基礎的なアクセシビリティ(fundamental accessibility)のテストのスコアが100%である唯一のアプリケーションである。
これまで、240の国と地域の、7000以上の教育機関の、8百万人以上の利用者に、2千万以上の書籍の、25億ページの閲覧を提供した。

最近はコンテンツ製作の取り組みをしている。製作ツール(VitalSource Content Studio)は、WCAG 2.0 AA に準拠したインタラクティブなEPUBの製作ができる
利用者へのコンテンツのアクセシビリティの透明性も重視している。DAISYとInclusive Publishing Hubと協力して、アクセシビリティチェッカーの開発をしている。これにより、利用者は、書籍を入手する前に、それがアクセシブルか、また、特定のアクセシビリティの機能を持っているかどうかを確認することができる。製作者やコンテンツから、利用者にアクセシビリティの情報を伝えることができる。2018年の初めには、このソフトウェアはリリースされる予定である。

私たちは、アクセシビリティのニーズに対応するため、皆さんと協力していきたいと考えている。改善しなければならない欠落を埋め、状況を改善していくために活動していきたい。機能、規格、法律、確認方法において、欠落を見つけるかもしれない。ワーキンググループに参加し、協力のための話し合いをして、それぞれの問題の欠落を解消して、透明性を確保していくために努力する必要がある。
アクセシビリティの保障は、終わりなき旅である。企業は、アクセシビリティを必要とするコミュニティを理解する必要がある。企業にとってのオペレーションと開発プロセスの中核になければならい。開発の終盤または完成した後でアクセシビリティに対応しようとしても、不可能である。最初からアクセシビリティを考慮してデザインする必要がある。企業DNAの中核として、取り組まなければならない。DAISYのメンバーになった重要な理由のひとつは、歴史的なリーダーシップ、コミュニティ開発そしてDAISYが提供するアドボカシーが、問題を解決し、目指すべき目標を示し、100%のアクセシビリティに導いてくれるからである。

そのコミュニティの一員になれたことを誇りに思う!
VitalSource Technologies LLC. 製品戦略部副部長 Rick Johnson

4.アクセシビリティ能力向上研修 in ボツワナ

WIPOとアクセシブル・ブック・コンソーシアム(ABC)の支援で、DAISYコンソーシアムは、プリント・ディスアビリティの人々の本と情報へのアクセスのためのプロジェクトをボツワナで実施した。
ボツワナでは、政府と非政府団体の両方が、時代遅れで経費がかかるワークフローでアクセシブルな書籍の製作をしていたことが分かった。また、ボツワナ政府の教科書出版社は、教科書をアクセシブルなフォーマットで提供していなかった。

2017年8月、ボツワナのハボローネ(Gaborone)で、アクセシブルな書籍と、インクルーシブ出版に関する2つの研修ワークショップが実施された。このプログラムは、Companies and Intellectual Property Authority (CIPA)、ボツワナ基礎教育庁、ボツワナ国立図書館サービス、ボツワナ盲人・弱視協会の支援により実施された。

Adobe InDesign を活用している、主要な出版社である、Pearson Education Botswana, Botsalano Press, Diamond Educational Publishers (PTY) LTD, Collegium (PTY) LTD, Byrness、そしてMacmillanの、計11人に、3日間の研修会が実施された。

参加者からは、学んだ技術は、製作する書籍のアクセシビリティを改善するだけでなく、作業時間と労力の削減や質の向上にも役立つと話した。また、これまでアクセシビリティについて知らなかったが、今後は、ガイドラインに沿って対応していきたいと話した。

もう一方の研修会である、EPUB3の製作と、それを活用した音声図書、電子点字ファイル、点字印刷の製作の研修会は、当初予定していた15人を大幅に上回る35人が、政府や教育機関から参加した。

はじめはDAISYコンソーシアムのツールのみを活用する予定だったが、参加者に教員が多かったこともあり、よりシンプルで簡単に使えるDolphin社のEasyConverter Express が、リリース直前であったが活用された。EasyConverter Express は、参加者のパソコンに何の問題もなくインストールできた。参加者は、EasyConverter Express によるWordからDAISYや拡大印刷への変換を、とても簡単で快適だと感じた。また、アクセシブルなフォーマットの提供にすぐに活用し始めたいと感じた。

2つのワークショップの成果は大きく、また、団体や政府はインクルーシブ出版と最新の技術による文書変換を始める準備ができており、それらを学ぶ機会さえあれば、環境を改善していけるという、更なる証拠となった。
Prashant Ranjan Vermaのレポートより編集

5.開発途上国でアクセシブルなコンテンツの問題をどう解決していくか?

世界盲人協議会(World Blind Council)の代表で、国際視覚障害者教育協議会ICEVI)の執行委員、ケビン・ケリーは、Dolphin Computer Access社に、簡単に使えて、無償の、点字、拡大、音声の製作ができるアプリケーションについて相談した。

Dolphin社のEasyConverterは、印刷された書籍を、アクセシブルなフォーマットに変換するために、すでに世界中で活用されている。ケビンは、無償で、パソコンの知識がなくても使えるようなものを考えていた。Dolphin社の開発チームと、コンセプトについて相談して、EasyConverter Expressが誕生した。

EasyConverter Expressは何が違うの?
既存のEasyConverterより、簡単に使えます。
まず、Wordから直接操作できます。
Word文書を開いて、メニューから「convert to」を選択して、変換したいフォーマットを選び、設定すると(点字テーブル、音声設定、フォントサイズ等)、あとはEasyConverter Expressが自動変換してくれます。

変換した後は?
変換できたら、すぐに提供できます。拡大印刷は、パソコンに接続された一般的なプリンターで印刷できます。点字は、点字印刷機で印刷したり、点字端末(例えば低価格のOrbit Braille Reader)で表示できます。DAISYやMP3のファイルは、DAISYやMP3のプレーヤーですぐに読めます。変換されたファイルは、遠隔地での提供のためにUSBに保存することもできます。

EasyConverter Expressへの反響は?
Dolphin Computer Access社は、いつもDAISYコンソーシアムのパートナーとして活動してきた。EasyConverter Expressは、世界の視覚障害者の90%が住むといわれる開発途上国に扉を開いた。これは大きな変革をもたらすだろう。
DAISYコンソーシアム開発途上国プログラム代表 Dipendra Manocha氏

話の発端となったKevin Carey氏は次のように述べた。
一番必要としている途上国の全盲と弱視の人々に無償で提供できるソフトの開発をしたDolphin社に感謝している。新しい低価格の点字端末と組み合わせることで、世界盲人連合(WBU)やICEVI(国際視覚障害者教育協議会)での視覚障害者の支援に大きな変革をもたらす。
世界中の一番貧しい国々の、全盲と弱視の人々に、点字や拡大図書を提供するためのすばらしくシンプルで無償の製品である。あとは、教員と管理者が使うかどうかだけだ。」
世界盲人協議会代表、ICEVI執行役員 Kevin Carey氏

EasyConverter Expressは近くリリース予定。
開発途上国では、 Dolphin Computer Access websiteよりダウンロード可能となり、また、USBでも提供される予定。

6.Marianne van der Meulen氏追悼

Solutions Radioの共同創設者で社長のMarianne van der Meulenが2017年7月31日に亡くなった。フレンドリーで、情熱的で、洞察力のある人物として、DAISYコミュニティーの記憶にいつまでも残るだろう。Marianneは、すべてのプリント・ディスアビリティの支援に情熱を持っていたが、特に、ハイテク技術を持たない高齢者の支援に熱心だった。Better Togetherカンファレンスでの最後の講演「beyond the young and well educated」は多くの共感を得た。彼女の情熱と使命は、Solutions Radioの製品に生き続ける。

7.ObiとTobiのアップデート

Obi(無償の、構造化された音声図書の製作ツール)の新しいメジャーアップデート、Obi4.0がリリースされた。新しいフレームワーク(.NET 4)への対応と、利用者からの以下の要望に対応した:

  • 時間ベースの自動ページ生成
  • プロジェクトの構造確認機能
  • 古いNCCファイル(Windows1252エンコード)の読み込みサポート

また、新しいバージョンは、EPUB3 Media Overlaysが、DAISYと同じように目次ナビゲーションできるように、対応もした。ドイツ語、フランス語、ポルトガル語の対応も完了して、計12ヶ国語に対応した。詳細は、Obi project page

Tobi(無償の、テキストと音声のDAISY図書の製作ツール)のベータ版がリリースされた。新しい機能は次のとおり。

  • 作業の自動保存と、戻る、進む機能の実装
  • 既存の音声の最後に容易に新しい音声を追加できるような、カセットの操作と似たコントロール機能の追加
  • マウスやキーボードショートカットでも音声拡大できる機能

他にも、いくつかの既知の問題が改善された。詳細は、Tobi beta release page

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修正点等お気づきの場合は、info@atdo.jp宛てにご連絡ください。

M.M.